2001 9 26(水)    晴れ

 ◆◆◆ テレビカメラに追いかけられながら ◆◆◆ 



軽鉄道の起点となる津軽五所川原は、JRの五所川原と中でつながっている

北国紀行も4日目に入った。今日は津軽鉄道を攻める。津軽五所川原を起点に、津軽半島を北上する形で津軽中里までの20.8キロを結んでいる津軽鉄道は、太宰治の出生地として、また冬期には石炭ストーブを積み込んだ列車が走ることで知られているが、その実態は、人口希薄地帯を行く単線非電化のローカル線で、タブレットや腕木信号機が未だに現役で活躍している数少ない路線の一つでもある。旧態依然としたその鉄道風景は、希少価値ゆえに大変魅力的で、スタート前から早くもそわそわしてしまう。だけど今日だけはなるべく平静さを装っていたい。というのは、今日一日の行動のすべてを、2台のテレビカメラによって一部始終記録されることになっているからだ。テレビの撮影はこれまでにも何度か経験はあるけれど、一日中カメラが回りっぱなしというのは初めてのことで、さすがにちょっと緊張する。みっともない行動は慎むようにしなければ、後で後悔することになる。



毘沙門の駅周辺には民家が少なく一部の列車は通過する

列車は一時間に一本程度と、ローカル線にしては比較的本数が多く、駅の数も12とさほど多くはないので、全部降りるのは難しいことではない。一日券がないため、歩きを併用しながら行きたいところだが、昨日も一日歩き回って疲れていることでもあるし、今日は無理せず、律儀に上下の列車を組み合わせながら、本来の降り方で制覇していくことにする。したがってかなりの出費を覚悟しなければならないが、明日もあることだし、今日は経済的なことより、快適さや効率性の方を重視したい。それに重いカメラをかかえながら、歩きに付き合わせるのはカメラマンにも気の毒だ。何が何でも安ければいいというものではなく、今回のような長期にわたる旅には、それなりの臨機応変さも必要なのだ。十川、五農校前、毘沙門と、最初のうちはホーム一本の無人駅ばかりの下車が続く。各駅の滞在時間はたっぷりあり、撮影も順調に進んでいく。スタッフも「のどかなところですねえ」と満足気のようだ。



津軽飯詰の駅舎は木造で、タブレットの交換も見られる

だが平穏無事なひとときは長くは続かず、津軽飯詰に降りたあたりから、次第に落ち着かなくなってくる。昔懐かしい木造駅舎の事務室にはタブレットの閉塞機が置かれ、腕木信号機を操作する黒色の信号てこも健在だ。木枠のガラス戸に年季の入った出札窓口、そして駅自体が地元住民のちょっとした社交場となっている、まさに駅の原点とも言える光景がこれだけ鮮やかに展開されれば、平静でいられなくなるのも無理はない。これこそが、私の探し求めていた駅の姿であり、実際に触れることができた喜びで、すっかり我を忘れてしまう。もはやテレビカメラなどどうでもよくなってしまい、理性で感情を押さえることができなくなってしまった。しかしスタッフはと見れば、イマイチ状況が理解できないといった顔をして、きょとんとしている。「感じのいい駅ですね」とは言ってくれたものの、同行者が共感してくれないと、こっちも張り合いがないではないか。



廃車となったキハ22が留め置かれる大沢内は、まるで廃駅のような雰囲気

金木、嘉瀬、大沢内と、それからも風情のある駅が続き、ますますテンションは高まって行く。何とも楽しい路線で、ここをロケ地に選んだのは正解だったようだ。駅前にタクシーが常駐し、観光客の姿も目立った金木、駄菓子屋を思わせるこぢんまりとした売店が印象的だった嘉瀬、無人駅となり廃墟と化したような大沢内、同じ木造駅舎でも、雰囲気は各駅によって異なり、その駅ならではの持ち味がよく表れている。こんな楽しい駅めぐりは実に久々のことで、じっとしているのがもどかしく、駅の内外をくまなく見て回り、何度も出入りを繰り返す。その後を辛抱強くずっとくっついて撮影するカメラマンはさぞかし大変だろうけど、すっかり自分の世界に入り込んでしまった私には、もはや彼らの存在は目に入らなくなっている。「いろんな駅があって面白いですね」とスタッフの一人が言ったけれど、その顔はどう見ても楽しそうではなく、本音かどうかは疑わしい。



終点の津軽中里はスーパーマーケットが併設された近代的な造り

駅めぐり及び撮影は順調に進み、やがて最後の駅となる津軽中里にたどり着く。この瞬間はいいもので、特にここはなかなか来にくい所であっただけに、無事制覇を成し遂げた喜びは、普段にも増して大きい。振り返ってみても、辛い思いをした所はなく、これだけ充実した一日を送れた駅めぐりも珍しい。ただ私は楽しかったけれど、それに一日中付き合わされた番組スタッフは果たしていかがであったか。これだけ撮影しても、放送時間はせいぜい6〜7分だと言うし、そのためだけに東京からわざわざ4人ものスタッフを引き連れて来たのだから、テレビの仕事というのは本当に大変だ。歳甲斐もなくはしゃいでしまい、これが放送されると思うと、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなるが、これも津軽鉄道の思い出として、いつまでも記憶には残りそうだ。なお、放送日時が決まり次第、トップページで告知するので、興味がある人はご覧になってみて下さい。スタッフのみなさま、今日は本当にお疲れ様でした。

 

この日の乗下車駅

津軽鉄道
・津軽五所川原
・十川
・五農校前
・毘沙門
・津軽飯詰
・金木
・嘉瀬
・大沢内
・川倉
・深郷田
・芦野公園
・津軽中里

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

         
9月25日

9月27日